2014年11月06日

11月のKindle岳『イワンの馬鹿』と菊池寛

さて、Kindle岳の11月は5冊の本が課題図書。

とりあえず最初に短そうなヤツからということで「イワンの馬鹿」を読みました。
おお、これは短くて読みやすい!
訳者は……先日のKindle岳の課題図書アルセーヌ・ルパンの「奇巌城」で多くの人を脱力させた巨匠、菊池寛先生です!
今回もこの短い話の中に誤植がちょくちょく出てきます。出版社が悪いのかなあ。
作者名は「トルストイ・レオ」となっていますが、英語ではレオ、ロシア語ではレフだそうです。

「イワンの馬鹿」というタイトルだけは聞いたことがありましたが、話の内容はまったく知りませんでした。
しかし、これ、なんか投げやりな感じの酷いタイトルです。
奇巌城で多くの人の心に残った
「黙れ、馬鹿!」とルパンは吼えた。
のシーンが蘇ります。

もちろん、馬鹿呼ばわりが好きだからこのタイトルに、というわけではなく、別の訳本によれば原題が
イワンの馬鹿とそのふたりの兄弟、軍人のセミョーンと太鼓腹のタラースと、唖の妹マラーニヤと、老悪魔と三匹の小悪魔の話
だそうです。長いよ! 一昔前のサスペンスドラマもびっくりのタイトル。

さて、肝心の内容。
とある裕福な農家に兵隊の長男、商人の次男、そして皆から馬鹿と呼ばれている三男のイワン、さらに、耳が聞こえずしゃべることのできない妹が両親と住んでいました。

長男次男は家を出て行ってしまい、残されたイワンは背中が曲がるほど働きました。
兄たちは一旦は成功したものの、その後没落して家に戻ってきて「金をよこせ」といいます。
イワンは「いいよ、好きなだけ持って行きなよ」と決して拒みません。
人々はイワンを馬鹿と言いますが、決して自分の生き方を変えない筋金入りの善人です。
そのイワンを悪魔が貶めようとしてあの手この手を打ってきます。

それにしても、何故悪魔が出てくるのかよくわかりません。
最後には悪魔が賢い人間は頭を使った仕事をする、ということを訴えようとして、謎のオチがつきます。
……とまあ、読後の素直な印象としては「すげえ変な話」です。

ところで、これを読んでいて、イワンが根っこを使い切ったのに、どうしてお姫様の病気が治ったのかよくわからなかったのです。
で、別の人の訳したイワンの馬鹿(北垣信行訳)をちょっと読んでみたら、どうやらお姫様の病気は自然に治って、たまたまそれと同時にイワンがお城へ到着したということのようでした。
……そうか。菊池先生のもそう読めなくはないか。

Wikipediaによれば、イワンというのは、ロシアの民話にしばしば登場する男性キャラクターだそうです。
愚直なキャラで、最後には幸運を手にするとか。
同じキャラが複数の話に登場するということなのか?
調べると、似たようなパターンの話がいくつかあるようです。http://rossia.web.fc2.com/sp/folklor/personazh.html

さて、菊池寛先生ですが、わたしにとっては『マンガの「サザエさん」に出てくるほど有名な作家』という存在です。
が、作品を読んだことはなく、Wikipediaに出ている主要作品もほぼ初耳。
「父帰る」というタイトルを薄ぼんやりと聞いたことがあるかもしれない、という程度。
ただ「真珠夫人」は数年前に昼ドラの原作になったという話を聞きます。

Wikipediaを読むと、作家以外にも色々なことをやった、なかなかすさまじい人です。
私財を投じて文藝春秋を創刊。直木賞、芥川賞も彼が創設したとか。
それと別にいまは菊池寛賞もありますが、これも自分で創設したそうです。もうなんだかすごい。
そして、多数の愛人を持ち、その一人が小森和子(小森のおばちゃま)であったという……

つい最近、本の雑誌九月号の『今月の一冊』を読んでいたら、石井桃子さんの話が出ており(ひみつの王国 評伝石井桃子)、そこに『日本女子大学在学中に、菊池寛のもとで外国の雑誌や小説を読んで、あらすじをまとめるアルバイトに携わり』とありました。
石井桃子さんは「ノンちゃん雲に乗る」の作者であり、クマのプーさん、ピーターラビットを自ら飜訳しました。
また、井伏鱒二訳のドリトル先生を最初に刊行したのは彼女が創設した白林少年館出版部だそうです。
星の王子さまの飜訳を内藤濯(ないとうあろう)氏に勧めたのも彼女でした。岩波から出ているやつです。
太宰治とのエピソードもなかなか興味深いモノが。

うーむ、わたしが子供の頃に好きだったドリトル先生も、元を辿れば菊池寛までさかのぼることができると。

もしかして、あの読みにくかったルパンに、石井桃子さんも関わっていたのでは、と考えたりしておりましたので、このイワンの馬鹿はタイムリーでありました。

というわけで、まあ、短く読めてそれなりに面白い作品でした。


posted by Red56 at 01:34| Comment(0) | Kindle岳
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