11月のKindle岳は複数の課題図書がありました。
できるだけ読むつもりでしたが、なかなか全部読むのは難しいかも。
というわけで、1冊目の「イワンの馬鹿」に続いては井上円了「妖怪学」を読みました。
これは一般的に非科学的とされている人々の行動、信仰について、できるだけ科学的な分析を試みようとする、なかなかスリリングな書でございます。
Wikipedia先生に寄れば、作者の井上円了は、哲学者であり、教育者だそうです。多様な視点を育てるための哲学に着目し、哲学館(現在の東洋大学)を設立したとあります。
そんな立派な先生が、様々な迷信、マジナイを解き明かそうとするのです。
文章はやや古く、堅苦しくはありますが、ミステリ的なものを読んでいると思えば、それほど大変ではありません。お疑いになるというのなら、創元推理文庫の『スペイン岬の謎』あたりと読み比べてみるとよいでしょう。こちらの妖怪学の方がよほど読みやすいのです。(個人の感想です)
円了先生は、第一章の最初の「総論」で「妖怪」なるものを「不思議に属するものの総称」としております。
そして妖怪は「物理的妖怪」「心理的妖怪」に分けられるとしています。
物理的とは、狐火や不知火など実際に起こっている事象のことを示し、心理的とは狐憑きや予言などを指すそうです。
さらに心理的妖怪を「病理的」「迷信的」「経験的」「超理的」と分類しています。
このように分類を繰り返し、それぞれについて原因を考えるという方法で、様々な事象に説明をつけようという試み。
素晴らしいではありませんか。
さて、円了先生が具体的な妖怪現象として最初に挑むのはこっくりさん。漢字で書くと狐狗狸です。おお、なにやら良い雰囲気の字面です!(個人の感想です)
ここで紹介されているやり方としては、まずは
生竹の長さ一尺四寸五分(50cmぐらい?)を三本用意して三つ叉に結びます。
その上にお櫃の蓋を載せて三人その蓋を軽くおさえて呪文を唱えます。
呪文は「狐狗狸様、狐狗狸様、御移り下され、御移り下され、さあさあ御移り、早く御移り下され」だそうです。
いいですねえ、この儀式っぽい感じが。
こっくりさん。わたし(赤井)が子供の頃に散々流行りました。
その頃のやり方は五十音のかなを書いた紙の上に貨幣を置いて、三人で指を添えて質問をするというものでした。
わたし自身は、こっくりさんは低級霊を招き寄せると「恐怖新聞」だか「うしろの百太郎」辺りから学んでおりましたので、友達の話を聞きながらも、自分では決してやりませんでした。
……いまの子もやってるのかなあ。
円了先生はこの謎の儀式が日本で最初に流行した場所を静岡の下田港近辺であると聞いて、その歴史を調べています。
どうも、下田付近で流行った頃は、大人も夢中になってこっくりさんをやって、色々とお伺いをたてていたようです。
そりゃ、こんな面白い現象が簡単に起こるのだから、みんなやるわな。
さらに調べると、日本には三百年以上前(この本が書かれたのが1890年頃ですから現在から四百年以上前になります)に伝わっており、信長や徳川がこれを用いたという記録が残っているとのこと。また、西洋の「テーブル・ターニング」がこっくりさんの元となっていることを調べ上げます。
で、円了先生、このこっくりさんの生竹で作った装置が動くのは何故か、ということを理詰めで説明しているのです。
まあ、ここで説明されていることは、現代の我々から見ればそりゃそうだろうとは思いますが、未だにオカルト的なものを信じる人も多数いますから、百年以上前にこのような試みをされているというのは流石です。
あ、とは言っても、子供の頃には霊の力で動くと信じてましたからねえ……子供にこそこの現象は科学的に説明できるのだということを広めたいところです。
今回読んだ「妖怪学」の中では、このこっくりさんの章が一番面白かったです。
こっくりさんに関する記述は、かつて円了先生が「妖怪玄談」として出したもののまとめだそうです。
現在、青空文庫で「妖怪玄談」が読めます。(この妖怪学も青空文庫ですが)
ありがたいことです。
確かに妖怪玄談は各章が「総論」「コックリの仕方」「コックリの伝来」「コックリの原因」と、全編こっくりさんに終始しています。
他に興味深かったのは「手の先より細糸を引き出す秘法」です。
その昔、ムーか何かで読んで気になっていた現象です。
「疳の虫」の出し方もムーに載っていたと記憶しておりますが、これも「妖怪学」で紹介されていました。
というか、この妖怪学を読んでいる間中、ずっとムーのことが頭に浮かんでいました。
かつて、ムーの記事にあった幽体離脱の方法を試して以来、極度の金縛り体質になったこともいまとなっては良い思い出です。
円了先生はこのような体から何か取り出す術、痛み止めや酔い止めに効く呪文などを紹介し、それぞれに合理的な理由をつけております。
余談ですが、ここで「船に酔わざる呪術」として紹介されている「ながきよのとおのねむりのみなめざめなみのりふねのおとのよきかな」は有名な回文です。
わたしはこれを泡坂妻夫先生の「喜劇悲喜劇」で知りました。これは「台風とうとう吹いた」で始まる回文尽くしのミステリです。その他にも森博嗣先生の「すべてがFになる」シリーズで超絶技巧の回文が出てくる作品があります。
というわけで、この辺りまでの紹介でわたしの力が尽きました。
今も昔もオカルトに惹かれる人はいるし、それを理屈で説明しようとする試みも繰り返されているのだということがわかる一冊となっております。
円了先生のその他の著作も青空文庫で下記から読むことができます。
「甲州郡内妖怪事件取り調べ報告」や「失念術講義」など刺激的なタイトルが並びます!
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1021.html
Wikipedia 井上円了
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%B8%8A%E5%86%86%E4%BA%86
そして、東洋大学には立派な博物館と、研究センターが。
ただの妖怪好きなだけの人ではなく、妖怪も好きだけど他にも何かすごいことをやった人だったということがわかります。
井上円了記念博物館
http://www.toyo.ac.jp/site/museum/
井上円了研究センター
http://www.toyo.ac.jp/site/enryo/index.html
Wikipediaの「こっくりさん」の項目です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%81%95%E3%82%93
2014年11月19日
11月の課題図書『妖怪学』
posted by Red56 at 00:46| Comment(0)
| Kindle岳
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