吉川英治の黒田如水(くろだじょすい)を読みました。
Kindle岳の課題図書の紹介で今年のテレビドラマになった人物を扱った作品ということを知りました。
が、原作小説というわけではないようです。
いままで大河ドラマを見たことはありませんが、主役の人はひらパー兄さんとして知っていました。
さて、このお話は今年多くの人に黒田官兵衛という名前で知られることとなった、秀吉と共に戦乱の世を戦った軍師の話です。
如水は年をとってからの名前。
恥ずかしながら、そもそも黒田官兵衛という人物自体を知りませんでした。
それにしても、昔の人って出世魚のようにたくさん名前があってわかりにくいです。
まあ、ウィリアムがビルになるようなものでしょうか。
……あ、全然違いますね。
Wikipedia先生に寄れば「初め祐隆(すけたか)、孝隆(よしたか)、のちに孝高といった」とあり、続けて「一般には通称をとった黒田官兵衛あるいは出家後の号をとった黒田如水として広く知られる」とあります。
……わざとわかりにくくしているのでしょうか。
それだけに止まらず竹中半兵衛と共に秀吉の元で働いていた頃には『後生「両兵衛」「二兵衛」と並び称された』そうです。
もはや彼の呼称だけで日本史の期末テストの半分が埋まりそうな状況だと言っても過言ではないと。
さて『黒田如水』ですが、わたしにとっては初めて読む吉川英治でした。
いままで歴史小説や時代小説は数十冊読みましたが、司馬遼太郎、藤沢周平で終わっており、今後読むとしても、かつて読んだことのある作家の志水辰夫、森博嗣(Void Shaperシリーズ)辺りに手を伸ばすぐらいかと思っておりました。
そこで初の吉川英治です。歴史小説や時代小説は久々で、それなりに長いし、読み切れるかやや不安でした。
が、読み始めてすぐにそれが杞憂であるとわかりました。
いままでのKindle岳の課題図書は「著作権が切れて無料となっている古典」という性質上、どうしても文章が古く、なかなか苦労する作品が多かったのですが、本作品は最後まで大変に読みやすく、とても面白かったです。
信長が勢力を広げようとしている時代、播州(現在の兵庫県の南西部)の地で毛利と織田の間に挟まれた弱小の城主の元に仕えていた孝高(官兵衛)の活躍を描いております。
冒頭の蜂のエピソードが強烈です。日和見的な家老達に煙たがれながらも、信念を持ってこれからの生き残りを説く姿が格好良いのです。
この辺りは「人物の魅力の出し方」「史実を踏まえた上での盛り上げ方」などさすがの職人技でしょうか。
信長側につくことを知らせるために単身岐阜へ向かう、そして秀吉、竹中半兵衛との出会い。
……どこまでホントなのやら。もちろん小説としては素晴らしい場面です。
秀吉の「人たらし」っぷりも見事。
この小説では荒木村重に官兵衛が捕らえられ、救い出される辺りが最大の山場です。
そして、横たえられたままで信長との謁見。
突然現れた半兵衛。
官兵衛の為に命を賭けようとする半兵衛。父の言葉に従おうとする松寿丸。己の非を認める信長。
これは泣ける……
日本の古い時代のことなので、女性の立場がとても弱いのですが、そんな中で一点鮮やかな印象を残すお菊さんに助演女優賞を捧げたいと思います。
蛍を探すように命じられ、古池へやってくるシーンの美しさが際立っておりました。
ここがこの小説の中のベスト名場面です。(個人の感想です)
そして、室殿……
僅かにしか出てこない女性の描き方が素晴らしく巧みです。
何故か官兵衛の妻は精彩を欠いているような描写ですが……
唯一感じた欠点といえば、物語が大変中途半端なところで終わっていることです。
完全に秀吉の右腕となって、秀吉が姫路城に移った辺りで終わり。
この先、いろいろとあるでしょ? 思わせぶりな描写もあったでしょ?
調べてみたら……本能寺やら朝鮮出兵やら関ヶ原やら事件がてんこ盛りじゃないですか!
何故ここで終わった……
しかし、多くの作家がこの軍師について物語を書いております。
司馬遼太郎先生も『播磨灘物語』で黒田官兵衛の生涯を描いているそうです。
これは読みたい!
と思ったけどKindle版が出てないぞ。
吉川作品は作者の没後50年を経過しており、既に著作権が切れているため、青空文庫でも多くの作品が読めます。
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1562.html
作品一覧を見ていたら「小説のタネ」というタイトルが。
吉川英治先生が自作の小説について書いている(語り起こしか?)短い文章です。「鳴門秘帖のころ」に新聞小説を書くにあたってのエピソードなどがあり、面白いです。
大河で官兵衛を演じている方の写真(いまは来年の手帳の宣伝が多いようです)をイオンなどで見ると、これまでは「ひらパー兄さん」が頑張っているなあ、ぐらいに思っていたのですが、いまは「おお官兵衛殿ではござらぬか。こんなところでいかがなされた。なるほど、優れた軍師とは優れた手帳を持っている者のことを言うのですな」と心の中で呟くようになりました。(個人の妄想です)
というわけで、大変に面白い物語でした。
2014年12月06日
『黒田如水』の一番心に残るシーンは……
posted by Red56 at 04:19| Comment(0)
| Kindle岳
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