やっぱり読んでいないミステリの話よりは読んだ&好きなミステリの話をしたいわけですよ!
……うーむ、しかしこれ、書こうと思った瞬間に迷うな。
それに、以前も似たようなことを書いた気がするけど、何回書いても楽しいからいいか。
まず、わたしが好きなミステリは「不可能犯罪もの」です。
あ、それだけだ。
なので、好みは著しく偏っております。
で、短編、というからには短い作品。
……大きな館が消える巨匠エラリー・クイーンの傑作『神の灯』は……長編ではないけど、短編でもないか。
うーん……
はい、選びました。というわけで、発表です!
ドラムロールと拍手は各自でお願いいたします。
まずは最初の作品。
エドワード・D・ホック『革服の男の謎』
アメリカの田舎町の開業医、サム・ホーソーン先生は、よくおかしな事件に出会います。
というか、出会う事件がすべて不可能犯罪という驚愕の短編シリーズ。
中でもこの『革服の男』の奇跡はちょっと他に類を見ないものではないでしょうか。
というわけで、いま読み返してみました。
50年前に死んだ革服の男。わたしは途中まで「これはいくらなんでも合理的に説明がつかないのでは?」と思ってしまいました。
そして、再び革服の男が現れた。サム先生は興味を持ってしばらくその男とウィスキーを飲みながら一緒に歩きき始めた。
途中で何人かの顔見知りと出会い、延々と歩き、最後にはすっかり酔っ払って、行き着いた宿で二人とも泊まる羽目に。
しかし、目が覚めるとサムは一人きり。宿屋の女将は「先生はお一人で来られました」と答える。
そんな馬鹿なと思い、昨日出会った人々に話を聞くと、誰もが革服の男なんか見ていないと言い張るのだった……
ところが、これが解かれてみれば強引ながらも明快なオハナシ。そして、見事なまとめ方。ため息がでます。
1000以上の短編ミステリを書いたというホック。唯一無二の存在でした。
……未収録のサム・ホーソーンをどこかにまとめてほしいものです。
残念ながらいまのところ本シリーズはKindle化されておりません。
紙の本でお楽しみを。
続いての作品は……
ジョン・ディクスン・カー『妖魔の森の家』
おお、やっぱりこれか……(自分で選びました)
ありふれてますか?
まあ、傑作だからしょうがないですよ。
二十年前に別荘の鍵の掛かった部屋から忽然と姿を消し、数日後に戻ってきた娘。
そして、いまヘンリー・メリヴェル卿の前で奇跡が繰り返されることに……
はい、密室に取り憑かれた作家。こんな人はもう後にも先にも彼しかいません。
短編よりは長編の作家ですが、この妖魔の森の家はあまりによくできています。
魅力的な謎の提示、そして恐ろしい幕切れの鮮やかなこと。
いやあ、素晴らしい!
某パタリロの中でこの事件のネタバレがあります。別のところで『妖魔の森』というのも出ていました。
まあ、魔夜先生がミステリ愛のある方だということはわかるので、わたしの中では良しとしています。(偉そうだな)
そして、最後を飾るのはこの作品です。
ギルバート・キース・チェスタトン『ムーン・クレサントの奇跡』
はい、なんか、このタイトルを出すの、もうここ数年で何度目か。
個性的なトリックの宝庫。ブラウン神父シリーズがたまらなく好きなのです。
鍵の掛かったビルの14階の部屋から忽然と姿を消した男が発見されたのは思いもよらない場所だった。
おお、紹介がこれだけでいいのか?
トリックは単純。新本格出始めの頃か! とツッコミを入れたくなるようなものです。
でも、これが、ブラウン神父の世界ではなんだか見え方が異なってしまうのです。
このシリーズの持つ独特の雰囲気。
でも、訳が古すぎて、これではなかなか新しい読者を獲得できないのでは……もったいないことです。
きっと、作者がチェスタトンだから、飜訳も難しいんでしょうね……
そして、新しい飜訳になったら、わたしが感じていた雰囲気も変わってしまうのかもしれません。
……あれ、違うぞ。
ごめんなさい。密室で選んでこの作品にしたけど、ブラウン神父の作品で、一番気に入っているのは別の作品でした。
やっぱりこっちです。
密室じゃないけど!
じゃじゃーん。
ギルバート・キース・チェスタトン『折れた剣』
「賢い人間なら樹の葉はどこに隠すかな」
「森のなかですよ」
あまりに有名なこのやりとりが出てくるのがこの短編です。
そして、ここで繰り広げられる物語の異常なことといったら……
理屈が積み上がって丁寧に組み立てられたその先に姿を現すモノの恐ろしさよ。
ミステリだけが、こんな物語を可能にするのです。
はい、というわけで、三つとかいって四つ出ましたが、とにかく選びました!
だんだん紹介文が手抜きになりましたが、いずれも面白い作品ばかりです!
そしていずれもKindleでは読めぬ!
……古典ミステリが全部電子書籍になってくれないと、安心できない……
これだけ古いミステリが読める国は日本だけですよ!
ここは是非データを電子化して、絶版を恐れなくてもいいようにしていただきたい。
あー、でも出版社がつぶれたらKindle版も販売停止になるのか?
その場合にそのデータを買った人はどうなるんだ?
先日紹介したクーンツもそうですが、「少し前の海外作家」の電子書籍化が著しく遅れているようです。「電子化など項目に入っていない翻訳&販売の権利」がネックになっているのでしょうか。
あるいは、いまさら苦労して電子化しても、売れるわけでもなし、ということかもしれません。
いつかブラウン神父の新訳が世に出てくれることをつぶらな瞳のフリして夢見ております。