ああ、またしてもKindleになっていない作品です。
が、一番好きなミステリなので、避けては通れない道なのです。
といっても、このページ、誰に頼まれて書いているわけでもありませんが。
というわけで、ブラウン神父シリーズでございます。
さて、少しミステリの世界へ足を踏み入れれば、おそらくそこかしこでこのシリーズの名を目にする、耳にする、口にする機会があるかと思います。
ところが、なかなか実際に読もうと思うと敷居が高い。
実際、わたしが小学生の頃に図書館で読んだ子供向けミステリシリーズの中で唯一まったく面白くないと思ったのがブラウン神父の本でした。
その原因としては
・探偵が地味(太った神父さん。派手な活躍は一切しない)
・理屈が謎(子供には難しすぎる理由で事件が解決されていく)
ということがあったと思います。
で、高校の頃に東京創元社の、五冊あるブラウン神父シリーズを読み始めたわけですが、これがもう大変にオモシロイのでした。
が、やはり、その確信を抱くまでに越えなければならないいくつかの障壁があります。
・訳が古い(訳者の中村保男氏は1931年生まれとあります。また、わたしが持っている訳では福田恆存氏と共訳のようになっているのに、現在売られているものは中村保男氏の名前しかないのはなぜでしょうか?)
・探偵が地味(子供心にも訴えませんが、大人になっても難しいかも)
・理屈が謎(それを面白いと思うか、なんじゃこりゃと思うか……)
さて、それらの困難を越えて読むべき理由はなんでしょうか。
このシリーズの特徴は、わたしの印象としては以下のようになります。
・不可能犯罪ものの優れたトリックの宝庫(この時代にこの独創性!)
・不思議な理屈が謎を生み出し、解決する独特の世界(「賢い人間なら小石をどこに隠すかな?」「浜辺でしょう」から始まって、とてつもないところまでたどり着く奇跡的な傑作『折れた剣』など)
・ブラウン神父の魅力
はい、というわけで、慣れてくるとこの地味な探偵である小太りの神父が実にかっこよく見えてくるのです。
できれば新訳で読みたいところです。
ルパンやホームズは派手な事件、主人公のキャラクタなどもあって、何度も映画、ドラマ、マンガになっており、近年になってまた小説の新訳も出されております。クリスティもクイーンも新訳が出ています。
が、ミステリ史の中でも一際大きな意味を持つこのシリーズがいつまでも古くさい訳でしか読めないというのは、実にもったいない話です。
というわけで、リンクは貼っておきますが、正直読みにくいので、無条件で人にお勧めするのもちょっと抵抗があります。
一巻は「ブラウン神父の童心」です。おお、目次を見ると名作ばかり。一押しは先ほど例に出した『折れた剣』でしょう。
そこから「知恵」「不信」「秘密」「醜聞」と全五巻まであります。
特に三巻の『ムーン・クレサントの奇跡』とか五巻の『古書の呪い』などの強烈な不可能状況&鮮やかな解決も大好きです。
新訳&Kindle化を切に希望します。
*2017年1月にKindle版出ました!! 上記リンクもKindle版にしてあります!
*新訳ではありません。
2014年03月22日
一番好きなミステリ『ブラウン神父』
posted by Red56 at 22:47| Comment(0)
| 紙の小説のオモシロイやつ
2014年03月09日
30年たっても心に残る『さむけ』
ハードボイルドという言葉の定義は、まあ、いろいろあるでしょう。
謎解きミステリ、それも不可能犯罪物ばかりを偏愛していたわたしにとって、それはもうあまり興味のない世界でした。
が、高校生の頃に古本屋で手に入れた「東西ミステリーベスト100」という本がありまして、ここにおもしろミステリーを対象にした、ベスト100の投票結果が載っておりました。
日本編と海外編。そして、冒険小説もあり。
そこにはクイーン、クリスティ、カーとハヤカワミステリ&東京創元社を読み進んでいたわたしが知らない名前がたくさんありました。
その中にあったロス・マクドナルドの名前です。二作が上位にありました。
「ウィチャリー家の女」が、ハードボイルドでありながら、本格的な謎解き小説でもあるとのこと。なるほど、おもしろそうです。
が、それと並んで高い評価を受けている作品が「さむけ」でした。
さむけ


え? さむけって……もちろん間違いなく日本語ですが、これを単独で抜き出してドンと置くと、なんだか妙な感じがしませんか? 本棚でタイトル順に並べると「サスケ」の隣にきますか?
原題はThe Chill。なるほど、間違ってはいない……
で、そういった違和感を覚えながらも読んでみました。
はい、それが30年ぐらい前の話なので、詳細はほとんど忘れております。
でも、ラストの展開の衝撃。探偵リュウ・アーチャーの最後の一言はずっと心に残ります。
見事なミステリでございました。
ハヤカワミステリ文庫から、今でも新刊で入手可能。表紙は辰巳四郎さんのものから変わっております。
あのペンダントの表紙、なかなか哀愁があってよかったのですが。
この頃、ロス・マクドナルドを何作か立て続けに読みました。
アメリカの裕福な社会を舞台に、とんでもない深い闇をのぞき込むような事件が多くて、そこへ挑む私立探偵リュウ・アーチャーがクールでカッコヨイのです。この解説で諦観(ていかん)という単語を覚えました。
是非、旧作を含めてKindle化をお願いします。
謎解きミステリ、それも不可能犯罪物ばかりを偏愛していたわたしにとって、それはもうあまり興味のない世界でした。
が、高校生の頃に古本屋で手に入れた「東西ミステリーベスト100」という本がありまして、ここにおもしろミステリーを対象にした、ベスト100の投票結果が載っておりました。
日本編と海外編。そして、冒険小説もあり。
そこにはクイーン、クリスティ、カーとハヤカワミステリ&東京創元社を読み進んでいたわたしが知らない名前がたくさんありました。
その中にあったロス・マクドナルドの名前です。二作が上位にありました。
「ウィチャリー家の女」が、ハードボイルドでありながら、本格的な謎解き小説でもあるとのこと。なるほど、おもしろそうです。
が、それと並んで高い評価を受けている作品が「さむけ」でした。
さむけ
え? さむけって……もちろん間違いなく日本語ですが、これを単独で抜き出してドンと置くと、なんだか妙な感じがしませんか? 本棚でタイトル順に並べると「サスケ」の隣にきますか?
原題はThe Chill。なるほど、間違ってはいない……
で、そういった違和感を覚えながらも読んでみました。
はい、それが30年ぐらい前の話なので、詳細はほとんど忘れております。
でも、ラストの展開の衝撃。探偵リュウ・アーチャーの最後の一言はずっと心に残ります。
見事なミステリでございました。
ハヤカワミステリ文庫から、今でも新刊で入手可能。表紙は辰巳四郎さんのものから変わっております。
あのペンダントの表紙、なかなか哀愁があってよかったのですが。
この頃、ロス・マクドナルドを何作か立て続けに読みました。
アメリカの裕福な社会を舞台に、とんでもない深い闇をのぞき込むような事件が多くて、そこへ挑む私立探偵リュウ・アーチャーがクールでカッコヨイのです。この解説で諦観(ていかん)という単語を覚えました。
是非、旧作を含めてKindle化をお願いします。
posted by Red56 at 10:54| Comment(0)
| 紙の小説のオモシロイやつ
2014年02月18日
『第三の銃弾』謎の見せ方と解決の美しさ
あらー、またしても新品が売られていない本ですよ……
これ、抄訳版というか、クイーンが自分の雑誌に載せるために適当に短くしたものがカーの短編集に収録されておりました。
長い間わたしのお気に入りの作品でしたが、突然出版されたのがこの『完全版』です。
第三の銃弾(完全版)


元判事が射殺され、部屋で拳銃を握りしめていた青年が逮捕される。しかし、部屋の中から別の拳銃も見つかる。果たして判事を撃ったのはどちらの拳銃か。
……という、あまり深い謎にはなりそうにない発端です。
しかし、ここからあっという間に読者は不可解な謎を突きつけられることになるのです。
うまいなあ。
魅力的な謎。ほどよい長さ。シンプルな解決。
ああ、素晴らしい。
しかし、これが普通に入手できないとは……名作なのに。
本屋でも一時はカーの棚が充実していたこともあるのですが……もういまとなっては昔の話です。
わたしが高校生の頃、カーに夢中になり、ハヤカワや東京創元社のカタログを見て本屋に何度か注文したことがありました。そして、大抵の本は『版元でも品切れ』と言われました。それに比べれば、Amazonで中古が手軽に手に入るのだから、便利な世の中になったものです。
これ、抄訳版というか、クイーンが自分の雑誌に載せるために適当に短くしたものがカーの短編集に収録されておりました。
長い間わたしのお気に入りの作品でしたが、突然出版されたのがこの『完全版』です。
第三の銃弾(完全版)
元判事が射殺され、部屋で拳銃を握りしめていた青年が逮捕される。しかし、部屋の中から別の拳銃も見つかる。果たして判事を撃ったのはどちらの拳銃か。
……という、あまり深い謎にはなりそうにない発端です。
しかし、ここからあっという間に読者は不可解な謎を突きつけられることになるのです。
うまいなあ。
魅力的な謎。ほどよい長さ。シンプルな解決。
ああ、素晴らしい。
しかし、これが普通に入手できないとは……名作なのに。
本屋でも一時はカーの棚が充実していたこともあるのですが……もういまとなっては昔の話です。
わたしが高校生の頃、カーに夢中になり、ハヤカワや東京創元社のカタログを見て本屋に何度か注文したことがありました。そして、大抵の本は『版元でも品切れ』と言われました。それに比べれば、Amazonで中古が手軽に手に入るのだから、便利な世の中になったものです。
posted by Red56 at 00:13| Comment(0)
| 紙の小説のオモシロイやつ
2014年02月11日
『サム・ホーソーンの事件簿』職人の技のすごさ
紙の本を次々にKindle本に置き換えようとしているのです。
例外はミステリか。などと思っていたら数百冊を残さなければならないので、残すのは『不可能犯罪もの』だけにしようと思っているのですが、カーだけでも本棚一段を占めており、表紙の違う『三つの棺』や函入りの帽子蒐集狂事件を見てグフフとか言っているので全く効率よく整理できていない状況です。
……あ、実際にはグフフなんて言っていません。ちょっとこのブログを面白くしようとして誇張してしまいました。実際にはもう少し謎のなんとも形容しがたい獣の呼吸音にも似た静かな喜び方をしています。
そんな不可能犯罪コレクションの中で比較的新しいのがエドワード・D・ホックの『サム・ホーソーンの事件簿』 です。五巻まで出ている短編集です。残念ながらKindle化はされておりません。
サム・ホーソーンの事件簿T


アメリカの片田舎ノースモントへやってきた若き開業医サム先生の周りでは次々に不思議な事件が発生。
不可能犯罪もので一番簡単(それだけに現在扱うのは危険)なシチュエイションは『密室』です。この事件にも密室ものはたくさん出てきますが、それを短編の中でいかに効果的に見せるか、というところで短編作家ホックの職人としての技が冴えまくります。
以下のような人にオススメです。
・不可能犯罪モノに興味がある
・ミステリは短編に限る
・多少強引な設定でも驚かせてくれるなら許せる
・多少どころか「狭い田舎町で年に一度は不可解な犯罪が発生してそれを毎回解決するのが保安官ではなく開業医」でも許せる
シリーズを通してわたしに一番驚きを与えてくれたのは『革服の男の謎』でした。(初めて読んだのは光文社文庫のホックの短編集でしたが)
サム先生が一緒に歩いたはずの『革服を着た男』の姿を誰もが見ていないと言い張る。
こんなに不思議なお話はブラウン神父の『古書の呪い』以来では、と思いました。
次々に発生する不可思議な事件が(短編なので)あっさりと解決されていくという……もう、不可能犯罪愛好者にはたまらない贅沢な作品でございます。
ただ、惜しいのは、この短編集は次第に作中の年代が進んでいくという趣向があり、その辺りで作者が何か大きな仕掛けをしていたと思われるのですが、途中で作者であるホックが亡くなってしまったのです。
なので、五巻まで短編集が出ていますが、ここに入らなかった作品がいくつかあるのです。
さあ、東京創元社様、ここでKindleですよ!
「サム・ホーソーンの事件簿全集」ですよ!
文庫本未収録の作品も加えた完全版をお願いします!
そしたら次にはレオポルド警部ものの作品集もお願いします!
パズル作家と思われていたホック氏の「それ以外」の作品集を集めた「夜はわが友」を読めば、この作者の懐の深さもわかるかと。
あ、もう新品では手に入らないのか……
これもKindle化をお願いします。
例外はミステリか。などと思っていたら数百冊を残さなければならないので、残すのは『不可能犯罪もの』だけにしようと思っているのですが、カーだけでも本棚一段を占めており、表紙の違う『三つの棺』や函入りの帽子蒐集狂事件を見てグフフとか言っているので全く効率よく整理できていない状況です。
……あ、実際にはグフフなんて言っていません。ちょっとこのブログを面白くしようとして誇張してしまいました。実際にはもう少し謎のなんとも形容しがたい獣の呼吸音にも似た静かな喜び方をしています。
そんな不可能犯罪コレクションの中で比較的新しいのがエドワード・D・ホックの『サム・ホーソーンの事件簿』 です。五巻まで出ている短編集です。残念ながらKindle化はされておりません。
サム・ホーソーンの事件簿T
アメリカの片田舎ノースモントへやってきた若き開業医サム先生の周りでは次々に不思議な事件が発生。
不可能犯罪もので一番簡単(それだけに現在扱うのは危険)なシチュエイションは『密室』です。この事件にも密室ものはたくさん出てきますが、それを短編の中でいかに効果的に見せるか、というところで短編作家ホックの職人としての技が冴えまくります。
以下のような人にオススメです。
・不可能犯罪モノに興味がある
・ミステリは短編に限る
・多少強引な設定でも驚かせてくれるなら許せる
・多少どころか「狭い田舎町で年に一度は不可解な犯罪が発生してそれを毎回解決するのが保安官ではなく開業医」でも許せる
シリーズを通してわたしに一番驚きを与えてくれたのは『革服の男の謎』でした。(初めて読んだのは光文社文庫のホックの短編集でしたが)
サム先生が一緒に歩いたはずの『革服を着た男』の姿を誰もが見ていないと言い張る。
こんなに不思議なお話はブラウン神父の『古書の呪い』以来では、と思いました。
次々に発生する不可思議な事件が(短編なので)あっさりと解決されていくという……もう、不可能犯罪愛好者にはたまらない贅沢な作品でございます。
ただ、惜しいのは、この短編集は次第に作中の年代が進んでいくという趣向があり、その辺りで作者が何か大きな仕掛けをしていたと思われるのですが、途中で作者であるホックが亡くなってしまったのです。
なので、五巻まで短編集が出ていますが、ここに入らなかった作品がいくつかあるのです。
さあ、東京創元社様、ここでKindleですよ!
「サム・ホーソーンの事件簿全集」ですよ!
文庫本未収録の作品も加えた完全版をお願いします!
そしたら次にはレオポルド警部ものの作品集もお願いします!
パズル作家と思われていたホック氏の「それ以外」の作品集を集めた「夜はわが友」を読めば、この作者の懐の深さもわかるかと。
あ、もう新品では手に入らないのか……
これもKindle化をお願いします。
posted by Red56 at 21:58| Comment(0)
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