はい、ちょっとミステリの話をします。ミステリとはどのようなものか。
それは結局のところ答えのない問いかけとなってしまうのですが、わたしにとっては『ヒーローもの』です。
『常人が解けない事件が発生! もうだめだ』という状況に陥った時に颯爽と現れ、解決困難と思われた事件をたちどころに解決してくれるヒーロー。それが『探偵』なのです。武器は謎を真相へと導く『頭脳』のみ。
その趣向、探偵の超人的なありがたさがもっとも分かり易く示されるのが『不可能犯罪』ではないでしょうか。
はい、いきなり不可能犯罪と言われてもわかりませんね。
では、できるだけ平易を心がけて説明します。それは犯行方法が『不可能』に見える『犯罪』です。
おお、思った以上に説明がうまくいった!
その分かり易い例が『密室もの』です。
『密室もの』の基本設定
・部屋の中で人が死んでいます。
・窓にもドアにも内側から鍵が掛かっています。
はい、これが密室ものです。このシチュエイションを元に千を越えるミステリが書かれています。そして、それぞれが独自の解答を生み出しているのです。
ああ、なんという不自然さ。
人工の犯罪。人工の謎。人工の探偵。
現実にはあり得ないものを積み重ねて築き上げた机上の楼閣です。
(おお、これなかなかカッコイイ表現だ! と悦に入っているので、砂上だろとか空論だろとかのツッコミはご勘弁を)
さて、その密室ものの中でもヒーロー的な要素が大きなモノとして選ぶとなるとここは超名作のこれでしょう。
ユダの窓


泣く子も黙る古典的名作。
が、Kindle本ではありません。すみません。
作者はミステリ界の巨匠といいつつ
ちょっと油断すると入手困難になるジョン・ディクスン・カーでございます。
この人、何が凄いって、70冊余りの長編があるのですが、ほぼその全てで不可能状況における犯罪を扱っているのです。うひゃー、なんという無茶なことを!
で、その中でも分かり易い名作として知られているのがこの『ユダの窓』です。まあ、名義は出版社の都合でカーター・ディクスンですが。
もちろん基本的には先ほど説明したような『密室ものの基本設定』のような事件状況なのですが、少し捻りをきかせてあります。
・ある女性と結婚を決意した若者が、女性の父親を初めて訪ねる
・女性の父親の部屋に案内され、緊張したまま酒を飲んだら、その途端に気を失う
・目が覚めると目の前で女性の父親が倒れており、胸には矢が刺さっている。
・部屋の中を見回すと、窓にもドアにも内側から鍵が掛かっている。
・さて、どうしたものかと思っているうちに部屋の外からノックの音が……
かくして男性は殺人罪で逮捕されます。
鍵の掛かった部屋に死んだ男と生きている男がいれば、誰だって生きている方が犯人だと思います。警察もそう判断しました。
そこで、出てくるのが我らが名探偵ヘンリー・メリヴェル卿です。
彼はこの青年の弁護士として名乗りを上げました。情状酌量ではなく、青年の無実を勝ち取ろうというのです。
しかし、青年が事件に無関係だとすると、真犯人はいったいどのようにして密閉された部屋の中で矢を撃って、外へ逃げたというのでしょうか。
卿は断言します
「本当の犯人は『ユダの窓』を使ったのだ」と。
そして、そのユダの窓というのはどんな部屋にも存在しているが、我々はそれに気がつかないのだと。
うひゃー、もうわくわくするでしょ!
これが密室ミステリというやつのオモシロさです。
というか、いま調べたらそもそも新刊が手に入らなくてプレミアがついてしまっているじゃないですか! 勘弁してくれよ。ハヤカワは速やかにKindleにしてくださいよ。
まあ、色々と権利が難しいのでしょうが……あるいは新訳を準備中かも!
posted by Red56 at 15:14|
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紙の小説のオモシロイやつ