この課題図書は1928年(昭和3年)に出版された『小学生全集第四十五巻 少年探偵譚』を元に電子書籍化されたものです。
一読してまず驚くのは誤植の多さです! 「いなかった」が「いかなった」、「叫んだ」が「叫だん」、「破られて」が「破らてれ」、「判事は驚いてしきりに考えて」が「判事は驚いたしきりに考えて」、「失くなって」が「失くなてつ」等々。
小学生に読ませるには酷というもの。
電子化にあたっては旧字、旧かなの表記を現代表記に改めたとあり、変更した表記について巻末に全て列挙されてます。
「彼奴」を「あいつ」、「不可ない」を「いけない」などといった変更をされているようです。しかし「大変」を「たいへん」、「沢山」を「たくさん」と書いてあるのはどういうことか……ああ、そうか。旧字の漢字ということでしょうか。
その他にも登場人物の表記の揺れ「ボードルレ」「ボートルレ」は「ボートルレ」に統一、といった具合です。
これを電子化したボランティアの方に敬意を払わずにはいられません。
作品のできとしては、子供向けの抄訳といった感じで、なにもかも駆け足。すごい悲劇もあっさり。まあ、この誤字オンパレード(電子化にあたって修正してあるのですが、いちいち底本ではこういう表記だったと注釈があるのです)がこれ以上続いたらちょっと辛かったかも。
少年探偵が主人公で、ルパンとやり合うのですが、これって密室モノの名作「黄色い部屋の謎」に出てきたルールタビーユみたい……と思っていたら、案の定、そのキャラに似ているということで、作者のガストン・ルルー(他の代表作としてオペラ座の怪人)と不仲に、ということがWikipediaに載っていました。(http://ja.wikipedia.org/wiki/奇巌城)
……ホントでしょうか。
そして、英国の探偵エルロック・ショルムスはもちろんシャーロック・ホームズのことです。
ルパンのシリーズには何度か出ているようです。
そもそも、最初(雑誌の連載時)は「シャーロック・ホームズ」としてルパンシリーズに登場していたようです。なんの許可も取らずに。勝手に。
ルパンの物語なので、好敵手でありながら、いつもルパンに出し抜かれるという役どころに。
さすがにホームズの作者コナン・ドイルから苦情が来て、本にする際にはSherlock HolmesのShとHを入れ替えてHerlock Sholmesとしたそうです。
よかったよかった。これで何もかも丸く収まった……
……それだけでいいのかよ!
ところが、日本で飜訳されるときにはこれをわざわざ「シャーロック・ホームズ」に戻すのが慣習となっているという……
ええっと、もう言葉もありません。わたしも子供向けの「ルパン対ホームズ」をドキドキしながら読んだ記憶があります。
中身はすっかり忘れましたが。
さて、Wikipedia先生に寄ればルパンは1905年から四半世紀以上に渡って書かれたシリーズだそうです。長編と短編集を併せて二十作を超える作品が出版されています。戯曲も何本かあります。
名前だけは有名ですが、日本ではまとめて読めるようにはなっていないのが現状。近年早川書房から新訳でルパンシリーズが出ているのですが、いまのところ五冊です。
今から読むのなら、これがいいかも。どこまで続くのかは売れ行き次第でしょうか。
翻訳者はポール・アルテ(今時貴重な密室作家)もてがけておられる平岡敦先生。アルテの新作を待っておりますので、お願いします。
……いま調べたら、平岡先生、オマル(2もある)とかジャプリゾの新訳(シンデレラの罠に続いて「新車の中の女」だ!)とかやられているようで、そもそもフランス語の翻訳家が少ないんでしょう。
しかも本職ではないからなあ……
さて、わたし個人のルパン歴としては、子供の頃にジュブナイルで読んだ『ルパンの予告脱獄』が初めての出会いでした。これはとても面白かった! いまでも手元にあります。昭和47年第一刷の昭和51年第六刷です。
せっかくですので表紙の書影を。これ、少年少女講談社文庫という叢書だそうです。表紙、挿絵はペリー・ローダンを手がけられた依光隆先生。中にはフランス大使館協力による「怪事件に登場 フランスの美しい壁布」という記事が!


が、それ以外となると……先ほどの「ルパン対ホームズ」も含めて図書館で借りて何作か読んだと思いますが、詳細は忘れました。
その後はルパン三世ですかね……
そして学生の頃。実家に帰省してやることもなく暇なので本棚に残っていた「古本屋で買うだけ買って読まずに放ってある新潮社のルパンシリーズ」を読んだことがありました。堀口大學先生の訳。
その一冊が「ルパンっぽい人が探偵役」という謎の短編集でした。タイトルは既に忘れてしまいましたが、これがなかなか優れたトリックを使った作品だったのを覚えております。
が、古い飜訳でルパンが自分のことを「儂(わし)」というのにどうしても慣れず、10冊ぐらいあった本ですが2冊程度読んで挫けました。
そして、社会人になってからのルパンとの出会いは森田崇先生の「アバンチュリエ」です。
ちょっと登場人物がマンガっぽくて抵抗があるかもしれませんが、内容はかなりしっかりとしています。なにより、作者の「ルパンへの愛」が眩しいほどです。
志の高いマンガ化。素晴らしい!
というわけで今回は楽々登頂成功でした。
いやあ、このKindle岳企画、是非続けていただきたいです。
早川の新訳 怪盗紳士ルパン
森田 崇 アバンチュリエ 1巻